やること
働き方の多様化にともない副業や個人事業主(≒フリーランス)が増加し、個人事業主から合同会社/株式会社に切り替える「法人成り」の注目も高まってきています。
法人成りの目的の一つは節税です。ネットで調べると「法人税は軽減されて15%」「だから個人事業主と合同会社の損益分岐点は…」といった情報が多く見られますが、ここで言う法人税が広義の「会社が負担する税」のことであるとすれば、他にも計算に入れなければならない税がいくつかあります。
今回は、合同会社の運営にかかる税金についてリアルな税額と計算方法を書き残します。
注意事項(必ずお読みください)
本記事は、神奈川県横浜市に本籍地を置く小規模企業者であるビネット&クラリティ合同会社が、2020年n月締めの期について、神奈川税務署、横浜市役所および神奈川区役所の監督の下に作成した確定申告書類とその税額計算方法に基づいています。税額や計算式は「資本金の規模」「従業員数」「所得の規模」「都道府県」「市町村」「関連法令」等によって変わります。本記事の内容はあくまで一例であり、いかなる損害が生じても弊社および筆者は一切の責任を負いません。
なお、消費税については一切言及していませんので別途計算を行ってください。消費税は売上1000万円を超えた期の翌々期から納付義務が発生します。
で、税金はいくらかかるのか
ここでは、売上からいろいろな経費を減じた課税対象額(≒純利益)が次の額だとします。従業員数は50名未満、資本金は1000万円未満とします。
① 課税対象額・・・100万円
国が徴収する法人税系
名称 | 計算 | 金額 |
② 法人税 | ①×15% | 150,000円 |
③ 地方法人税 | ②×4.4% | 6,600円 |
※ソース:国税庁「法人税の税率」
→「平31.4.1以後」が該当
※ソース:国税庁「地方法人税の税率の改正のお知らせ」
→「令和元年10月1日前に開始した課税事業年度」が該当
都道府県が徴収する県民税系
名称 | 計算 | 金額 |
④ 法人県民税(法人税割) | ②×3.2% | 4,800円 |
⑤ 法人県民税(均等割) | 一律 | 20,000円 |
⑥ 事業税(所得割) | ①×3.4% | 34,000円 |
⑦ 地方特別法人税 | ⑥×43.2% | 14,688円 |
※ソース:神奈川県「神奈川県における法人県民税・事業税の税率および特別法人事業税または地方法人特別税の税率」
→「平成28年4月1日から令和元年9月30日までの間に開始する事業年度分用税率表」が該当
市町村が徴収する市民税系
名称 | 計算 | 金額 |
⑧ 法人市民税(法人税割) | ②×9.7% | 14,550円 |
⑨ 法人市民税(均等割) | 一律 | 54,550円 |
※ソース:横浜市「法人の市民税」
→「平成26年10月1日以後に開始する事業年度」が該当
合計
税金②~⑨を合計すると約29.9万円、実効税率は29.9%です。
会社を設立しようとしていろいろ勉強している方にとって、これは高く感じるのではないでしょうか?実効税率がこんなに高くなってしまったのは、事業規模に対して均等割(約7.5万円)の負担が大きいからでしょう。
ちなみに東京都の場合は「都」の括りですのでまた少し混乱します。がんばって検索してください。
課税対象額と税額の関係
一つの式にまとめるとおよそこんな感じです。
税額 = 課税対象額 × 22.5% + 74550
課税対象額(≒純利益)400万円までは同じ式でよさそうですので、税額と実効税率をグラフにしてみました。
ここで個人事業主と合同会社の損益分岐点も出したいところですが、両者では経費の範囲が異なるので比較が面倒くさいです。ご自分で計算される場合は、合同会社の設立費用約6.3万円(ほぼ最安値で)もご参考ください。
よくある質問(FAQ)
小規模な会社の運営に税理士は必要ですか?
筆者は「不要」と答えています。なぜなら、税務署に行けば一緒に計算してくれて、これがもっとも正確だからです。税理士さんにお願いするのは楽ですが、結局のところ最終的に判断するのは税務署ですから、はじめから税務署に計算をお願いしたほうが良いと思います。
またこの場合、税務署から調査が入ったときに「記帳ミス」や「損金に認められない」といったことはありえますが、「税金の計算ミス」は起きえません。心配であれば記帳方法についても相談してみていいかもしれません。税務署は企業の味方です。
経理はどうしてますか?面倒じゃないですか?
Googleスプレッドシートで管理しています。簿記も何も分からない状態でスタートし、2年目の終わりに安定版に落ち着きました。
帳簿は面倒ですが、以下3つのメリットがあると思うので、器用な人は自分で行っても良いかと思います。
- 帳簿や税金について理解が深まる
- 税理士のコストがかからない
経理ソフトは何を使っていますか?
無料で使える円簿会計です。もちろん確定申告書類も出力できます。Googleスプレッドシートで管理している帳簿を整理しながら円簿会計に流し込むイメージです。
ネット上には非常に有名なサービスがあります(経理について調べるとあらゆるサイトのお尻に広告としてくっついているアレです)。数週間だけ使ってみましたが、とある理由でやめて円簿会計に切り替えました。
記帳でトラブルは?
2年目の決算報告書類を作っていたとき、1年目の社会保険料関係の記帳方法が間違っていることに気がつき、2年目の確定申告と同時に1年目の修正申告を行いました。
具体的には、社会保険料と呼ばれる「健康保険料」「厚生年金保険料」「子育て支援税」を全額「会社負担=法定福利費」として記帳してしまっていました。正しくは、「健康保険料」「厚生年金保険料」は半額が「会社負担=法定福利費」もう半額が「個人負担=預り金」、「子育て支援税」は全額が「会社負担=法定福利費」でした。預り金は給与から天引きした額に対応しています。
税務署の職員さんが懇切丁寧に対応してくださいました。改めて感謝申し上げます。
確定申告でトラブルは?
確定申告時に税務署で計算していただいた県民税額と、その直後に区役所で計算していただいた県民税額が食い違っていました。区役所の職員さんは大変困惑した様子でしたが、結局区役所の金額で納付する判断になりました。税務署への納税額に影響はないのでおそらく問題ないと信じています。
節税って違法では?
税金は基本的に少し多めに徴収しています。節税とは「払い過ぎている税金を適正額に近づける行為」であり合法です。脱税は違法です。
税金よりも社会保険料高すぎない?
健康保険料について、全国健康保険協会(協会けんぽ)はこれまでの保険料率の上昇を受けて「今後の保険料率の見通しは楽観できません」という社会通念上ギリギリの表現を用いた上で、シミュレーションを通して現在の保険料率10.0%を9.8%へ引き下げることを暗に否定しています。お察しください。。
年金については、私たちが受け取る頃には受給開始年齢が90歳くらいになっていると思います(割と冗談ではない話)。諦めましょう。平成初期に生まれた人たちは一度も好景気を体験することなく、親の年収を超えることもなく、高い社会保険料を払いながら死んでいく運命なのです。