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26-11. 自称日本一わかりやすい「上位互換」「下位互換」の誤用と使い方

はじめに

「ポリゴン2はポリゴンZの上位互換だ」といった表現を聞いたことがあると思いますが、少し調べるとこれが誤用であることが分かります。しかしどこが間違っているのか、理解が難しい部分があります。

「上位互換(性)」「下位互換(性)」の意味を調べてみたのですが、どの説明を見てもなんだかしっくり来なかったので独自にまとめてみました。なにせ、プレステは「上位互換性がある」「下位互換性がある」どちらの情報も見つかるのです。もうぐっちゃぐちゃです。今回のポイントは、「主語は2つ以上のもの」「主体を明確にする」「着目する機能を限定すること」です。

図解「上位互換性」「下位互換性」

今回、気合を入れて図を作りました。これで言いたいことは90%おしまいです。

まず、「上位互換(性)」「下位互換(性)」という言葉を使う前に前提条件を確認します。

  1. 同一シリーズの2つ以上の製品(もの)についての話であること
  2. それらに定義上の上位と下位が定められていること
  3. それらのある同一の機能に着目していること

ここで大事なことは(全部大事なのですが)、互換性の話なので2つ以上のものを主語に取るということです。ですから「AはBの上位互換だ」という表現は不適切なのです。と同時に、「上位互換性」を「上位互換」と略すことも誤解を与えやすいため、フルで「上位互換性」と言うべきであることも意識しておきましょう。

これらの前提条件を満たす場合に限り次のステップに移ります。対象の製品や機能を模式図に当てはめて、上位互換性と下位互換性があるかをチェックすれば完了です。

具体例1 ゲームボーイシリーズ(本体を主体とする場合)

事例がおっさんですが、ゲームボーイカラー(1998年発売)とゲームボーイアドバンス(2001年発売)を考えてみましょう。後発のアドバンスはカラーの専用ソフトも遊ぶことができます(カセットがはみ出ますが)。逆はできません。

まず前提条件ですが、どちらもゲームボーイシリーズで(①)、発売日やその性能からしてカラーが下位、アドバンスが上位であることは疑いようがありません(②)。そしてここでは「専用ソフトが遊べるか」という機能に着目することにします(③)。

次に、例の図に当てはめるとこうなります。

互換性を見ていきます。下位(GBカラー)を使っていた人が上位(GBアドバンス)に交換しても今まで通りソフトが遊べるかと言えばYES。上位互換性があります。一方、上位(GBアドバンス)を使っていた人が下位(GBカラー)に交換すると遊べません。下位互換性はありません。

結論として、GBカラーとGBアドバンスに限った話ですが、専用ソフトが遊べるという機能においてゲームボーシリーズは上位互換性がある。といえます。

単に「ゲームボーイは上位互換性がある」と言うこともあるかと思いますが、「専用ソフトが遊べるという機能において」を省略してしまうと誤解を招く可能性があります。これは具体例3・4で説明します。

具体例2 ゲームボーイシリーズ(ソフトを主体とする場合)

さて、言葉を調べていると「プレステは下位互換性がある」というサイトもありました。いやいや上位互換性だろ。どうして真逆なんだ。それは視点が違うからだと考えられます。

先程の例のハードとソフトを逆にして、ソフト視点で見てみましょう。

下位(GBカラー専用ソフト)を遊んでいた人が上位(GBアドバンス専用ソフト)に交換しても今まで通りソフトが遊べるかと言えばNO。上位互換性はありません。逆に下位互換性はあります。

視点を逆にすると互換性の表現も逆になってしまいました。ですから主体(主語)が非常に大切ということです。ゲームボーイ本体は上位互換性がある。ゲームボーイソフトは下位互換性がある。こうなるということです。ほんまややこしい。

具体例3 USBポート(通信できるか)

次に、他のサイトでもよく挙げられているUSBポートの例を見てみましょう。

まず前提条件を確認します。どちらもUSB規格で(①)、登場年やバージョンの数字からしてUSB2.0が下位、USB3.0が上位でしょう(②)。ここでは「専用ケーブルで通信できるか」という機能に着目することにします(③)。

例の図に当てはめます。

USB2.0ポートを使っていた人はUSB3.0ポートに交換しても問題なく通信できるので上位互換性があります。一方、USB3.0ポートを使っていた人がUSB2.0ポートを使えと言われても通信ができるので、下位互換性もあります。

つまり、USB2.0とUSB3.0に限った話ですが、専用ケーブルで通信するという機能においてUSBポートは上位互換性下位互換性もあります。

具体例4 USBポート(高速通信できるか)

先程のUSBポートの例で、着目する機能を「専用ケーブルで高速通信できるか」にするとどうなるか考えてみましょう。

USB2.0ポートを使っていた人はUSB3.0ポートに交換してもこれまで通り最大480Mbpsの高速通信ができるので上位互換性があります。一方、USB3.0ポートを使っていた人がUSB2.0ポートを使うとこれまで通りの5Gbpsの転送速度は出せないので下位互換性はないです。

つまり、(USB2.0とUSB3.0に限った話)専用ケーブルで高速通信するという機能においては、USBポートは上位互換性しかありません。着目する機能によって互換性は変わるのです。

具体例5 ポリゴン系統

最後に、よくある誤用例を見ていきましょう。

ポリゴン2はポリゴンZの上位互換だ

私はポケモンガチ勢ではないので多少容赦してほしいのですが、まずポリゴン2は進化するとポリゴンZになり、一般的には進化後の方が優秀です。しかし進化前のポケモンのみが持てる「しんかのきせき」というアイテムがあり、これが防御と特防を1.5倍にしてくれます。これを持たせることを前提とすると進化前のポリゴン2の方が防御面で優秀で、ガチ対戦ではもっぱらポリゴン2の方が用いられています。

そもそも主語が1つであることから誤用だと分かるのですが、きちんと互換性を考えるとそれ以外の間違いも見えてきます。

前提条件で注意したいのは、ポケモンの進化という定義上、ポリゴン2が下位であることです。

ポリゴン2を使っている人がポリゴンZに交換してもこれまで通りの防御性能が得られませんので、上位互換性はありません。逆に、ポリゴンZを使っている人がポリゴン2に切り替えても大丈夫なので下位互換性があるといえます(厳密には覚えない技とかあるかもしれませんが、まあ)。

つまり、(ポリゴン2とZに限った話)防御性能においてポリゴン系統は下位互換性があります。※一番進化前の「ポリゴン」は無視してください

ここで誤用の「ポリゴン2はポリゴンZの上位互換だ」と比較すると、正しい表現をすれば「上位」という言葉が登場しません。大切なことは、「上位互換性」「下位互換性」の上位・下位とは優れている方を指すのではなく、定義上の上位・下位を意味するということです。その認識から誤用が始まっていたのでした。

では何と言えばよいかというと、

ポリゴン2はポリゴンZより優れる

これで良かったのです。それを「ポリゴンZが果たす機能をポリゴン2はすべて果たせる」という「包含」のニュアンスを与えようとして誤用になってしまったのだと考えています。

おわりに

類似の言葉に「前方互換性」「後方互換性」もありますが、今回の説明と同じノリで理解できると思います。

余談ですが、ポケモン対戦では不思議な言葉がよく用いられます。「採用する」「内定する」「(技や特性が)配られる」など、どこか就職活動を連想させるような表現が使われています。これらの表現は、自分はゲームを俯瞰する立場であり、あくまで客観的に、決してゲームに没入することなく、ポケモンを駒ととらえ、その採否や戦術を冷静に考察している様子を強調しています。開発者と同じ視点に立ってプレイしていますよと。どこか大人がポケモンで遊ぶ恥ずかしさを隠そうとする気持ちが現れているようにも感じます。

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この記事を書いた人

博士(理学)。専門は免疫細胞、数理モデル、シミュレーション。米国、中国で研究に携わった。遺伝的アルゴリズム信者。物価上昇のため半額弁当とともに絶滅寸前。

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