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16-13. 「フッ素樹脂加工が剥がれる!」で考えるデマと科学リテラシー

やること

先日このようなツイートを見かけました。これをツイート①とします。2020/9/20時点で8.2万いいね、3.3万リツイートという強者の呟きです。

予備

これに対して次の返信があり、同様に多くのいいね・リツイート数を記録しています。これをツイート②とします。

予備

これを見たとき「僕もこんなにリツイートされたいなぁ」という気持ちになりました。そこで今回は、いいね数・リツイート数を稼げるツイートのコツを考えていきたいと思います。

違います違います。

ソース(参考文献)が無いのによく信じられるなぁ」です。まあ信じてなくてもイラストさえ良ければ拡散される時代ではありますが。

筆者は料理が好きで、当たり前のようにフッ素樹脂加工フライパンを使っています。フッ素樹脂加工フライパンと言えば「テフロンが剥がれた!」といった耐久性に関する話題で、ネットで検索すると「空焚きはNG」「水で急冷はNG」といった注意事項が散見されます。これはプライパンの説明書にも書いてあることです。

テフロンはデュポン社の商標です。

今回は、フッ素樹脂加工フライパンを題材にして、デマに騙されないための科学リテラシーを考えてみます。ただし考える題材であって、フッ素樹脂加工の剥がれやすさの真偽には深く言及しません。

ニセ科学に惑わされないために

またツイート引用で恐縮ですが、「スクエア最新図説化学」(第一学習社)に次の記述があるとのことです。

予備
予備

これは本当に義務教育で教えるべき内容だと感じます。昔こんな議論があったことをご存知でしょうか?(ちょっと記憶が曖昧で不正確です、あくまで例えとして)

  • 料理のコゲには発ガン性物質が含まれる(ソースあり)
  • コゲを食べたマウスは有意にガンになった(ソースあり)
  • だから私たちはコゲを食べるべきでない

というもっともらしい理論が世間を恐怖のどん底に陥れました。しかしその後、マウスとヒトの体重比を考慮すると「人間であれば毎日ドラム缶1杯分のコゲを食べ続ければガンになるかも」という冷静な解釈が認知され、騒動は収まりました。よかったですね。

この例は上記ツイート画像内のステップ2に相当します。マウス実験の結果がそのままヒトに当てはまると考えてはいけないという項目です。やはり「一定の信頼性がある国際学術雑誌に論文が掲載されているかどうか」を見極めなければなりません。といっても「ヒトがガンになるまでコゲを食べさせ続ける」なんて実験は倫理的に認められませんが・・・。

余談ですが、近年の機械学習関連の研究は技術の更新が早すぎて査読時間さえもったいないため、arXiv(読み:アーカイブ)というサイトで公開して、後に査読していきましょうね、という形式が主流になっています。見た目は論文のようですが、ほとんどが査読されていませんので玉石混交、言葉を選ばずに言えばデマの温床です。

このネット時代にあって人間の承認欲求と出世欲には凄まじいものがあり、デマ論文を量産する人はいます。「SOTAを達成しました!」なんて言っている人は承認欲求が高めです。

その他に大切なこと

上記ツイートに加えて、他にも注意したいことがあります。

何か言っているようで何も言っていない。

例:じゃがいもは皮も一緒に食べた方が栄養が多く採れるんですよ(料理研究家)

皮の分だけ多く摂取しているから当たり前です。小泉進次郎構文に近いものを感じます。

ある仮説が否定されたからといって、その逆が正しいとは言えない。

例:柿よりもピーナッツが多いと言われているが、調べてみたら間違いだった→よって柿の方が多い

数学で命題の「逆」とか「対偶」とか習いましたよね。例と似たようなことは、統計の記事でも強調されています。

知名度が高い仮説はウソでもうっすら信じてしまう。

例:レタス1個分の食物繊維が含まれています→大した量ではない(キャベツ1/8個分)

この例はすっかり有名になりましたが、それでもこの表現を見ると「大した量じゃないけどそれでも他の食品よりは食物繊維が多そうだ」と思ってしまうバイアスがあります。これは「単純接触効果」の一種だと思います。次のツイートでも論文を引用して指摘されています。

予備
引用されている論文はこちら

フッ素樹脂加工フライパンについて調査してみた

さて本題に入りますが、フッ素樹脂加工フライパンを長持ちさせる方法について、どの程度ソースが示されているかの調査を行いました。

調査方法

Google検索で「フッ素樹脂加工 長持ち 方法」「フッ素樹脂加工 剥がれる 原因」などで検索して見つけた30個の記事について、次の項目に言及しているかどうかを確認しました。

  • 仮説1:空焚きNG、強火NG
  • 仮説2:金属ヘラNG・金属たわしNG
  • 仮説3:冷水ジュワーNG
  • 仮説4:作り置き放置NG
  • 仮説5:水滴残しNG
  • ソースが示されているかどうか
結果

結果の概要は次のとおりです。

30件のサイトは平均3.5個の仮説に言及しており、5つの仮説すべてに言及するサイトは7件ありました。ソースらしき記述があったサイトは5件で、ソースが有効とみられるサイトは2件でした。この2件が記載するソースはいずれも仮説1(フッ素樹脂加工の耐熱性)に関するものでした。仮説2~5に関するソースは一つもありませんでした

もう一度言います。30件もサイトがあって、仮説2~5に関するソースは一つもありませんでした。

結果の詳細はExcelにまとめてありますので、必要な方はどうぞ。

彼らが主張する根拠

サイトの中には、仮説の根拠となる理論をもっともらしく示しているものがいくつかありました。

仮説1フッ素樹脂加工の耐熱性は約260℃である(ただし空焚きしない限り260℃には達しない。温度はともかく、調査はされているらしい)
仮説2物理的に剥がれる(実際にえぐれるので本当でしょう)
仮説3急激な温度差により収縮・膨張するため剥がれる
仮説4ピンホールと呼ばれる微細な穴からフライパンが侵食され剥がれる
仮説5水道水の蒸発後に残るカルキが塗膜を侵食する
結果の解釈

ここからは個人の解釈が含まれますが、仮説1・2はある程度信用できるでしょう。一方、仮説3~5は一つもソースを見つけることができなかったため、ウソかホントかわかりません。「説明書に書いてあるし、よく言われているから本当なんじゃない?」と思ってしまうバイアスがありますが、それは違います。本当にウソかホントか分からない、天秤の針はド真ん中です。

結局何が言いたいのか

冒頭のツイート②はもっともらしい根拠を与えていますが、ソースがありません。

また仮にソースがあって事実だとしても、「コゲを食べるとガンになる」の例に照らし合わせて考えれば、理由として不十分であることがわかります。「急激な温度差によってフッ素樹脂塗膜の体積が変化するから剥がれやすくなる」という主張ですが、仮に「0.00001%の体積変化が起きる」として、そんな小さな体積変化はフッ素樹脂塗膜の剥がれやすさには影響しない、ということも十分に考えられるわけです。

こういうのを「論理に飛躍がある」と言ったりします。一見ロジックが繋がっているように見えて、実は繋がっていない状態です。

まあツイッターは論文ではないので茶々を入れるのはどうかとも思いましたが、科学リテラシーについて考えさせられたのでご紹介しました。なお、いずれのツイート主もを批判する意図は一切ありません。ツイッターは便所の落書きと一緒ですので、ソースを求める方が野暮だからです。

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